「鶴見俊輔さんのお仕事には、書かれたものだけではなく、書かれなかったものも多い」と、冒頭の作家の黒川創氏の言葉にあるように、2015年に物故したこの哲学者の膨大な仕事のうち、表に出なかったものを丹念に拾い集めて辿ってゆく試みが始まりました。本書はその第一弾となり、鶴見氏とハンセン病とのつきあいについて、没後に行われた関係者たちの講演会の記録です。60年代、ハンセン病患者を支援する施設「交流(むすび)の家」の立ち上げなどに始まる一連の活動を通じて、この病が抱える問題と向き合う氏の姿勢と思想が真摯に伝わってくる内容は読みごたえと共に読者にも様々に新しい感慨と発見をもたらすでしょう。同時に、日本社会で差別され続けてきたハンセン病の実態の一側面を知る上でも短いながら貴重な資料となっています。これまであまり知られなかったとされる鶴見氏の仕事と関わり方を通してハンセン病の歴史を理解する端緒ともなる本書。続刊が待たれるシリーズです。
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