かつて京都に「日本小説を読む会」という読書会がありました。それは、京都大学人文科学研究所のメンバーが中心となって昭和33年から実に37年間、一月も休まず(!)学究のためというよりはひたすら楽しみのため続けられたという伝説の読書会。本書は、代表者でもあった京都在住の作家・山田稔氏によって語り下ろされたこの会の盛衰史です。なぜ、どのようにしてこのような会が始まり、そして40年近い寿命を保ち、終わっていったか。前半は会の歴史をたどり、後半は400回に及ぶ報告会から16作を再録するという構成。続けて読めば、会の臨場感、熱気、時代の空気、そしていかにこの会が特異かつ稀有なものであったかが伝わります。
毎回一人が小説を選び報告し、それについて作家論ではなくひたすら作品論を戦わせる。京都を代表するといってよい知識人たちがまるで青年のように、小説を熱く語り、笑い、共感し時に言い合い…。そこにあるのは「小説が好き」という純粋な気持ちと読む歓びを分かち合うという楽しさです。
本書は歴史的な証言の意味で貴重なことは言うまでもなく、ただひたすら小説を読む楽しみが伝わるという点でも意義深い一冊であり、一部のファンからは待望された書でもあります。稀代の名文家であり小説読みでもある著者の筆に誘われながら、かつて存在したこの会の息吹を感じて下さい。小説を読まずにはいられない人たちに心からおすすめします。
著者:山田 稔 / 出版社:編集グループSURE / 130mm × 190mm / 224P /
ソフトカバー