シリーズ 本のともしび
“小品仕立ての「灯光舎 本のともしび」は、書物の愛好家たちはもとより、作者や作品との出会いと読書そのものへの機会になればという想いのもとに創刊いたしました。これまで絶えず私たちに伝わってきた作品たちが、このシリーズを起点として、さらに後世へとつながっていく。 本に灯った明かりを絶やさぬよう、蝋をつぎたす活動の一片になれば幸いです。” ―シリーズ刊行にあたり
京都の出版社・灯光舎より刊行がはじまった「本のともしび」は、味わい深い文章とその作家自身を、あらためて見出そうとするシリーズです。選者は、銀閣寺の古本屋「善行堂」主人・山本善行さんです。良い随筆や私小説を読みたいと思うとまず山本さんに聞きます。
第一巻、寺田寅彦『どんぐり』に続く、第二巻の作家は田畑修一郎です。寺田と比べればマイナーな作家と言って差し支えないと思います。田畑の著作は、古書価も高く、店先で出会うことも稀。そんな作家を知る機会には、なかなか恵まれません。古本に埋もれてきた山本さんの味が滲み出た、人選と作品選びではないでしょうか。収録作は「木椅子の上で」「あの路この路」「石ころ路」の三篇。「日常生活を正面からとらえ、自分を静かに見つめて描かれた田畑文学の一端」を届ける一冊です。名篇は、年齢や知識の寡多を問いません。本書は、等しく、読者を文学の真髄へと導いてくれるでしょう。
今回も美しい装丁、造本です。題字部分の青い設えは、写真だと十分に伝わりませんが、きらきらと輝いています。自宅の本棚に並べたとき、静かに輝く背の煌めきが目印になります。