数々の埋もれた日本文学の名作を世に紹介してきた書物エッセイストで「古書善行堂」店主の山本善行さんを撰者に迎え、読者の心に染みる作品を読書の入口となるような「小品」仕立てで紹介する「灯光舎 本のともしびシリーズ」。
その第3弾は、『山月記』や『李陵』で知られる中島敦。三十二歳で南洋庁に入り、植民地用の国語教科書を作る準備調査で赴いたパラオで出会った島民の女性をユーモラスに親しみあるまなざしで描いた「マリヤン」、ある南の島に伝わったとされる昔話を題材に描いた「幸福」。これらいわゆる南洋もの2作品と、それ以前の教師時代の経験をベースにした「かめれおん日記」をあわせた一冊です。さらには、昭和50年代の『中島敦全集』月報に収められていた中島敦の妹・折原澄子氏による貴重なエッセイ「兄と私」も収めます。
撰者いわく、日本語の豊かさ、独特なユーモア、ものや人や自然を見る眼の鋭さにおいて、「どのような時代がきてもその価値を失わない」中島文学。短命だったためその作品は数少ないものの、この一冊からあらためてその魅力を再発見できるはずです。文芸書には珍しいグリーンとイエローの配色、三方を緑に染めたデザインによる存在感もひときわ印象的です。