キャンバスを布に、絵の具を糸に変えて表現する「ファブリック・ピクチャー」。日本における第一人者である森麗子の70代の頃の作品集です。遠い景色、夜空の月、移ろいゆく季節。心の中の奥深くに旅するような美しい絵が糸と布で描かれてゆく様は不思議な感覚を見る人に呼び起こします。子どもの頃にみた懐かしい景色を思い出すような、優しくどこか切ない気持ちになるような。シンプルな材料で作られ、一見平板のようにみえながら、その向こうに独特の詩的世界と時の奥行きを感じさせる作品の数々。それぞれの作品に付せられた詩も透明感にあふれ、ニードル・アーティストとしての著者の感性が凝縮されたひそやかな一冊です。特に目立つ難はなく古書として標準的な状態です。