2005年、福岡の路上で車に轢かれ、倒れていた一匹の犬。著者である写真家・橋本貴雄さんはその犬を引き取り、「フウ」と名付けました。本書に収められているのは、橋本さんがフウと共に過ごした12年間、福岡で、東京で、ベルリンで、撮り続けてきた写真たち。青々と生い茂る草原の真ん中で、いつも足を運ぶ森の中で土を踏みしめ、散歩中に出会った人に撫でられたり、ときには遠い海を眺め、雪の上を走り、部屋で、毛布にくるまれたり。橋本さんがフウへ向けていた視線をたしかに追うように、二人の時間と風景の集積でもある262点の写真が続きます。
本書のタイトルである「風をこぐ」は、事故による後ろ脚の後遺症で、全身でうねるように、前脚だけで風を漕ぐように進むフウの姿から橋本さんが付けられたそう。巻末にはこの物語の背景を綴った2万字のエッセイを収録。横長で構成された装丁も美しく、まるで一本の映画でもあるような、温もりと深い慈愛を湛えた一冊です。