「一別以来」と書いて、いちべついらい。大の海軍びいきだった詩人の田村隆一が、久しぶりという意味で使われた挨拶だと著者に教えたことがあったそうです。本書はその田村の妻、和子にまつわる思い出を、一時は同じ屋根の下で生活を共にした長きに渡る友人が綴る、優しさに胸のつまるような回想録です。彫刻家、高田博厚の一人娘であり、詩人の北村太郎の愛人でもあった田村和子。老境にあっても生来の溌剌さを失わず、夫に去られ恋人に逝かれてもなお愛猫とともに稲村ケ崎の家を健気に守りつづけた詩人の妻の後半生が、もっとも身近に接した著者ならではの慈愛に満ちた筆でいきいきと描き出されています。同じ著者による『珈琲とエクレアと詩人』(港の人)に惚れ込んだという夏葉社代表、島田潤一郎が満を持してお届けする、人生の滋養に富んだ読み継がれるべき一冊の誕生です。
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