向田邦子の代表的エッセイ集であり、時を超えて愛され続ける珠玉のロングセラーでもある本書。「野中の薔薇」を「夜中の薔薇」と聞き違えていた人のエピソードから自由な連想がはじまる表題作ほか、それぞれ短いながら著者特有の語り口が魅力的なエッセイが50あまり。言葉のこと、家族のこと、生活のこと、酒のこと、仕事のこと…向田邦子を形づくる諸々の要素が軽やかに浮かんでは消え、その文章の世界に読者はゆっくりと遊ぶことができるでしょう。同じ講談社文庫の『眠る盃』と対をなして愛される作品ですが、著者最後のエッセイ集であることを思うと、いっそうその優雅な知性と不思議な暖かみを持つ独特の魅力が胸に残ります。
著者:向田邦子 / 出版社:講談社(文庫) / 105mm × 150mm / 260P / ソフトカバー