僕は鳥のように美しい声で鳴くことができない。
大樹のように高くそびえ立つこともできない。僕はひとりの小さくて弱い人間でしかない。
それでも人間には言葉がある。言葉には、言葉の力がある。
鳥のようにさえずり、樹木のように枝を広げるかわりに、僕は一冊の本を読者に届けたい。
(「あとがき」より)
わたしたちが生きている地球、自然、その周辺を取り巻くすべて。ひとつひとつの小さな生命がときに集まり、ときに個々に在ることで常に新しく生まれつづける輪。その織に触れたときにあふれる未知の歓び、深い賛嘆。名著『センス・オブ・ワンダー』待望の新訳が筑摩書房より届きました。カーソンの眼差しを辿り、3年という長い時間をかけ翻訳を手掛けたのは独立研究者・森田真生さん。書の前半では、未完である本作を森田さん独自の視線よりつなぎ直した翻訳を収録。後半では、森田さんが京都という地で子どもたちと共に季節を重ね、思考を反芻し、移り変わる風景を通し感じ取った驚異(ワンダー)をのびやかに綴った「そのつづき」おさめます。頭で知ることより、五感で感じること。人間の存在を超えるものに遭遇し、目を輝かせ胸を躍らせることの潔いうつくしさが、今ここに。仔細で美しい装画はイラストレーター・西村ツチカさん。(韓)