雑誌『アルプ』をはじめ、多くの山岳関連書で挿絵や版画を発表した大谷一良氏。子どもの頃から山の版画を制作していた山を愛する青年は、やがて大学で串田孫一の知己を得、版画の世界では畦地梅太郎に私淑し、出会うべき人に出会いながら山の姿を彫り続け描き続けてきました。本書では、その画業から84作品を精選し紹介。一点一点にみる清々しい山の姿、美しい色彩と厳かな空気。山の生命や息吹、そして冴え冴えとした月の光までもがその中に描きこまれています。特有の素朴さと美を宿した稜線。くすんだ青に箔押しを施した美しいブックデザインもその世界を優しく包みます。巻末には大谷氏自身のエッセイを4篇掲載すると共に、実子である発行人三人による父の思い出も語られ、この美しい本にふさわしい余韻を添えています。