マルシェの出店やデモへの参加など、リアルタイムの社会と積極的に関わり合おうとする奥誠之が、絵描きとしての視点で日々を解読していく17篇のエッセイと作品集。
「セラピーとしての絵」と比較される「ケアとしての絵」についての記述では、当店アテリでも個展を開催した土屋未久さんの作品についても触れられています。著名な芸術家からまさに現代の作家まで幅広く取り上げつつも、日記のように綴られた文章は決して難解ではなく、挿入された自身の作品と静かに共鳴するかのよう。
絵を描くこと、絵を観ること、絵がそこにあることの内実を作者と共に探りながら、読者は誰もが心の内に持つ「芸術の居場所」に出会い直す、或いは初めてそれを認識するのかも知れません。
作品名『朝が待っている』が印刷された表紙カバーや栞のように挟み込まれた厚紙の作品目録。文章の合間の、手貼りの小さな作品群。多くの手作業から成る美しい一冊です。(藤林)