東京に出てきた頃の日記を見返すと、こんなことが記されていた。
[普通でいること、平凡という難しさ。それはとても壊れやすい。奇跡よりも遠く、手に入らないもの。私はそれを大切にしていくべきだと思う。](本書より)
14歳の頃から写真を撮りはじめ、現在も多岐にわたり活躍を行うフォトグラファー・長田果純さん初となる写真集。本書に収録されているのは、かつて長田さんが体験した「生きている現実が平凡な夢のようにしか感じられなくなってしまった」、とある一定期間のあいだ撮り納められた写真たち。
人物は写っておらず、ただひたすらに並んでいく遠い日の景色、記憶、現実と夢のはざまに存在するかのような淡くたしかな光。眠りからさめても、今目にしている単調な日々は果たして実在しているのだろうか。身体と心がゆっくりと分離し、継ぎ目がぼやけても、憶えていたいシーンを捉えてはシャッターを切り続ける。集積されてきた感情とその場所に留まっていた湿度と静かな熱が、写真という形を通してゆっくりと交わり合っています。余白を含んだ静謐な佇まいも美しい、途切れなく過ぎていく日常にそっと寄り添う一冊です。(韓)