敗戦を経て日本が立ち直りつつあった1950年代、市井の人々や公共機関、在野の学究の徒たちによって様々なサークルが立ち上げられ、それに伴い多くの印刷物も作られるようになる。それらの会報誌や記録冊子を、若き鶴見俊輔は「日本の地下水」というタイトルで毎月紹介・時評し続けました。本書にはそれら時評文のうち「思想の科学」に掲載されたもののみが集められ、ひとつの論集としてまとめられています。マスコミュニケーションの避けられない発展と共に、小さくなりつつあった文字・言語による活動。独自の連帯の中で言葉として成果を残 し、言語による抽象能力を信じつつ表現した紙の媒体。それらを真っ向から受け止め次世代につなぐ輪郭を探った鶴見氏の論評64本を収録。「本の手帖」「ユリイカ」「ノッポとチビ」など文芸関連から、医療や経済、あるいは戦後の住宅事情や修学旅行に至るまでジャンルは様々。締め切りを設定し文字数を決め、紙に印刷し製本する。その議論の中には「はじまりと終わりがはっきりと あった」と編者・黒川創氏はあとがきで述べます。SNS時代の際限のないつながりのなか、鶴見俊輔の遺した文から新たな議論の形を模索する。細く流れ続ける地下水にも似たその小さなメディアの表現の軌跡は読み応えがあります。