京都にあった幻の出版社、「第一藝文社」。滋賀県大津で創業し、のちに京都に移ります。社主の中塚道祐ただ1人にて、のちに活躍する作家の第一作を多く手がけ、鋭敏で、美しい本を多数出版いたしました。第一藝文社の代表作の多くは戦時下に出版されており、困難な時代の中でどのように本を作っていたのか。この謎めく出版社に早田リツ子さんが迫ります。
著者である早田リツ子さんと第一藝文社の出会いは、2015年4月。友人に北川冬彦の著作「純粋映画記」について尋ねられた事がきっかけです。自身と第一藝文社とのなにげない共通点から、いつの間にかその魅力にハマり、謎に包まれたベールについて、あらゆる手段を駆使して調べ尽くします。そして、京都の古書店「善行堂」の店主である山本善行さんの著作に、同じく第一藝文社に注目し、触れている文章を見つけました。この出会いがのちに、夏葉社から刊行される事になる本書の大きな出会いとなります。
本を作ることが好きで、その仕事に惚れ込み、困難を抱えながらも情熱を注ぐ事を恐れず、文化を作ってきた1人の人間と、ほんの小さな手がかりを求めて集め尽くした早田さんの集大成、縁を求めたことにより現代のひとり出版社「夏葉社」から、その機軸が刊行されることとなったこと、情熱が伝達する様に、本が「もの」として存在する価値、魅力の詰まった、評伝として類書の無い1冊。
「第一藝文社」刊行の書籍には、詩人 杉山平一「夜學生」、映画評論家 今村太平「漫画映画論」、詩人 北川冬彦「詩人の行方」、作庭家、庭園史研究家 重森三玲「挿花の鑑賞」、など有形無形の文化に関係する本が佇まいある装丁で発行されました。
本書もカバーを捲ると美しい布張りの装丁です。(原口)