「長篇小説の国フランスでもいま短篇小説が注目されつつある」として、フランス文学からよりすぐりの短篇を拾い、編訳したアンソロジーです。リラダン、ア ポリネール、シュオッブらから生まれたフランス短篇のエッセンス、そのエスプリ。どれを読んでも読み応えと読後感は素晴らしいものですが、本書全体を通じて感じるのは、やはり女性性、少女の思考、女の視点。フィリップの「アリス」、デュラスの「大蛇」、ラルボーの「ローズ・ルルダン」。それらから伝わるある種のたおやかさやしたたかさに満たされた不思議な短編集ですが、それがフランス短篇の傾向なのか、編訳者の山田稔氏の選択眼から来るものなのかは定かではありません。しかしどの作品の訳を読んでも、女性の語り口を非常に丁寧に扱っているのは確か。それゆえ、よりなめらかにより女性的に、どこまでも口溶け甘く、時には辛く、淑女がポケットにしのばせて時折開くにふさわしい文庫となっているようです。とかく海外アンソロジーというのは、編訳者のセンスが如実にあらわ れるもの。そういう意味でも女ごころのわかる訳者に感謝したくなる一冊です。
編訳:山田稔 / 出版社:岩波文庫 / 110mm x 150mm / 353P / ソフトカバー