キャンバスを布に、絵の具を糸に変えて表現する「ファブリック・ピク
チャー」。日本における第一人者である森麗子の95年刊行の『こころの旅』に続く作品集。独りぼっちのカラス、古い街、中庭のある家、終わりゆく秋など、抑えた色合いでどこか儚さと寂しさをたたえた作品が多く、独特の叙情に彩られたページが美しい。制作に時間のかかるニードル・アートという性質が、穏やかな時の流れをそのまま表しているかのような作品の連なり。タイトルにあるように遠い時間に思いを馳せる心を見る者にそっと与えてくれるようです。老年にさしかかってから刊行された本書は、著者の重ねてきた様々なエッセンスが凝縮されたであろう一冊。裏見返しに若干のカスレあり、それ以外は特に目立つ難はなく古書として標準的な状態です。