詩人・茨木のり子が32歳のとき、従姉妹の建築家とともに設計し、その後およそ50年を暮らした自邸。本書は、今もなお残るその家を、貴重なスナップや資料とともに写真に収めた一冊です。
印象的なピロティ建築の建物。扉のハンドルやスイッチ、天井にまで意匠の凝らされた玄関。家具がぴたりと収まるよう設計された室内。端正でありながら、どこかあたたかな住まいのそこかしこには、長い歳月をかけて重ねられた暮らしの気配が残っています。
愛用の眼鏡、谷川俊太郎が撮影したポートレート。無印良品の「Y」の箱に収められた自筆原稿、使い込まれた鉛筆や日記、夫によるクロッキー、韓国語学習の単語カード。そして、季節とともに表情を変える庭の景色から、自らしたためた死亡通知の原稿まで。
ひとつひとつを眺めていると、この家で書き、学び、食べ、人を迎え、庭を眺めながら過ごした茨木のり子の時間が静かに流れはじめるようです。
よく知られた詩の言葉とはまた違うところから見えてくる、ひとりの生活者としての姿。住まいとそこに残されたものを通して、その人の美意識や日々の営みにそっと触れていきます。
巻末には、甥・宮崎治による、伯母との思い出を綴ったエッセイ「伯母と過した週末」も収録。
光の差し込む窓辺を写した表紙を、薄いトレーシングペーパーが覆う美しい装丁も印象的です。一枚めくると、その窓の向こうにある家を訪ねるように。茨木のり子が暮らした場所と、そこに流れた歳月を静かに辿る一冊です。(岡本)
著者:茨木のり子
発行:平凡社
サイズ:A5
その他:127P / 上製本