なつかしい未来 あなたともう一度にくんだりあいしあったりしたい
混じりあう時間の流れ、全編にうっすらと流れる生命の気配や寄る辺なさ、繰り返し訪れる冬のイメージ、予定調和でないことばの重なり。
「自分をとりまく世界への違和の表明のようなもの」、「あるいはその違和を確かめながら、世界に触れ直していく試みのようなもの」として——。
そうして歌人・村上きわみさんが紡ぎつづけた短歌が、一冊の歌集となりました。
未収録の作品を、生前親交のあった歌人・錦見映理子さんが編集。絶版となっていた歌集『fish』『キマイラ』とあわせて、あらためて現在に読み継がれる、集大成的な一冊です。
ページをめくるたび、心のなかに言葉の手触りが確かな存在感を帯びて響いてきます。
装丁は名久井直子さん、写真は石の人さん。
さらに別冊栞には、穂村弘さんや田中槐さん、枡野浩一さん、岡野大嗣さん、平岡直子さんら歌人による一首評が付属しています。(岡本)
【収録短歌より】
次に来る波をむかえにゆきなさい尾を高くしてわたしのけもの
そうでした 最後に見せてくれたのはこの世のへりをつかむ足指
心臓をまもって歩くけものたち(夏のいのちはいたみやすいね)
靴紐をきつく結んだ 好きでいることを謝りたいひとがいる
白湯で溶く蜜のぬめりのどんなにかくるしいだろう ふゆがはじまる
水の襞ひどく乱して白鳥は今いっしんに飛び立つところ
欲望、おまえが口にするときの奇妙な涼しさを信じよう
灯台の胴に巻きつく海風の、そうだね、すべてくつがえしたい
こちらからあちらの岸へ にくたいはすずしい舟とあなたは言った
よいつらら育つ真冬をありがとう ひどいことたくさんありがとう
魚の声鳥のことばでかわしあう約束ならば未来のために
著者:村上きわみ 編:錦見映理子
発行:左右社
サイズ:四六判
その他:264p / ソフトカバー / 別冊栞つき