わたしの自炊は、趣味ではない。調律だ。
人生に自分で料理を作らなければ自分を保てない時間がたくさんあって、
わたしは何度だってこの菜箸で、自分自身を調律していた。
人生に余裕があるから自炊をたのしんでいるのではない。
余裕がない人生のなかで、自分の人生に納得するためのその手段が自炊だった。
（「自炊は調律」より）

作家・くどうれいんによる食エッセイ。雑誌『オレンジページ』での人気連載と、河北新報での東北エッセイ連載、書き下ろしを多数に加え、書籍化された一冊。有休の日につくって食べたたまご丼、実家にある小さなサラダバー、「お土産」じゃない萩の月の話、小さなさすまたのように思える葱のこと、料理のつやめき、思い出のシェーキーズ…。文字を追うだけで目の前に湯気が立ち、においが鼻をくすぐってくるような、珠玉の48編を収録。誰しもが心の深くに持つ「食べる」記憶を、鮮明に呼び起こしてくれます。（韓）

著者：くどうれいん
発行：オレンジページ
サイズ：四六判
その他：212p / ソフトカバー