-ふるえながらめぐりながれ、この世に現れては過ぎ去っていくもの。ささやかで覚束なく、どこか不可思議でわりきれないもの。そうしたものにずっと心惹かれている。
(本文より)
京都を拠点に宗教実践や環境運動をテーマに、タンザニアやガーナ、インドで調査を行ってきた文化人類学者・石井美保さん。
本書は旅の間に間にスケッチするように書き溜めた随想集。創世の過程を物語るものに想いを馳せながら、世界の隙間のさらに奥深くへ。ガーナの村の精霊、インドのトラ保護区、ウクライナの国境…。時世を見つめながらも、共振する何か、ふれあうものに想像を働かせる日々を書き出す22編。
「数式と神話」では、翻訳家・岸本佐知子さんとの語らいの中で出た”球体a”の「つるっつるすること」への魅力など、各地を調査する傍らの個人的な体験、学術や記憶がおりまざる学び豊かな1冊です。
石井 美保(いしい・みほ)
文化人類学者。これまでタンザニア、ガーナ、インドで精霊祭祀や環境運動についての調査を行ってきた。2020年の夏、アジア・太平洋戦争で戦死した大叔父の遺した手紙を手にしたことから、戦争と家族史について調べ始める。主な著書に『環世界の人類学』(京都大学学術出版会)、『めぐりながれるものの人類学』、『たまふりの人類学』(ともに青土社)、『遠い声をさがして』(岩波書店)などがある。現在、京都大学人文科学研究所教授。このエッセイの挿画を描いている銅版画家のイシイアツコとは実の姉妹。
石井美保研究室:https://www.mihoishiianthropology.com/
イシイ アツコ
銅版画家。フランス・ヴァンセンヌ市在住。1995年に渡仏、銅版画を始める。以降モントルイユ市、パリ20区、ヴァンセンヌ市などで銅版画制作を行う。1996年より、フランス、日本、メキシコ、香港、スウェーデン、ベルギー、アメリカなどでグループ展、1999年より、フランス、日本、ドイツ、オランダ、ベルギー、ニューカレドニア、台湾などで個展を開催する。フランス女性誌「BIBA」のイラストレーション、j'ai lu出版、l’ecole de loisir出版の文庫本カバー、ブランドisabel marantのTシャツイメージ、百貨店bon marche のグッズなど、コラボレーションも多数。
(原口)