フランスに住みつつ漢詩にまつわるエッセイをものす。一見不思議な組み合わせながら、距離や時の垣根を軽々と超え、鮮やかに軽やかに多様な言葉を紡ぐ小津夜景さんのエッセイ集。たとえば表題作の「たこぶね」とはタコの一種。南フランスの海を眺めながらそのたこぶねについての記憶を自身の読書体験から導き、そこに先人が詠んだ漢詩をからめて紹介する。その飛躍の妙とつながりの面白さに読み手は思わず引き込まれる…そんな、好奇心を刺激し豊かな知性の広がりを感じる文章が31篇おさめられています。書物の海、漢詩の森、日常の風景、それらの自由な行き来が読んでいて楽しい。今はなかなか触れる機会も少ない漢詩ですが、長い歴史の中で我々の文化や思考に深く根づいていることにもあらためて気付かされる一冊。読み物としての面白さ、文章の巧さ、知的好奇心へのアプローチ、多様な見方を呈してくれるユニークさ。なにより著者の訳した漢詩のリズムの良さにも惚れ惚れします。
*本作は文庫本も刊行されておりますが、当店では初出である素粒社版の単行本を販売しております。