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料理はそんなふうに、
幾重にも刺し重ねられた
刺繍のようなものだ。
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(帯文より)
東京・国立で夫婦が営む飲食店「台形」。メニューは季節に応じた6品の創作料理。コース仕立てだが前菜やメインといった枠組みはなく、記憶や感情、ごく個人的な欠片の積み重なりから生まれたほかにない料理が提供される。
これは台形をおもな舞台に描かれた日々の記録。仕事、暮らし、旅…彼らの日々を構成するあらゆる要素は溶け合い、不思議な浮遊感を伴って現実と物語の間を揺蕩う。いつの間にか一緒に住み始めた山羊「オク」にはじまり、魚屋で目が合って購入したサワガニを溺愛し、シャインマスカットを与える話、旅の途中で思いがけず石拾いに熱狂したことなど、日々の端々に転がる出来事が懐かしくも異国の風を纏ったレシピとともに、熱く静かに描かれる。辺境の飲食店「台形」の奇想で極上な一冊。
【目次】
オク/アウトサイダー/完璧な一日の始まり/ぬ/朝プリン/デイドリーム/土の色/黒い鍋/フライ/石のサウダーデ/美食クラブ/サード・インパクト/西へ/家旅館/日陽はしづかに発酵し/食日誌(2021年2日2日〜8月4日/2022年3月3日〜3月31日)/あとがき
●伏木庸平
1985年、東京都出身。2016年に東京・国立市で『台形』を開業。妻・大木瑶子とともに創作料理をコース仕立てで提供するほか、縄文土器や民間信仰品などの古物も販売している。美術家としても活動し、セゾン現代美術館(2022年『地つづきの輪郭』)、十和田市現代美術館(2014-5年『繋ぐ術 田中忠三郎が伝える精神』)をはじめ、国内外の展覧会に参加。生活と店と制作とが地続きな日々を送っている。
(岡本)