食通というよりは食いしん坊、食べること、食べてもらうことが好きだった伊丹十三。その食への愛すべきこだわりと思い出が綴られた文章を軸に、本書では一人の生活者の姿を追っています。名文「スパゲッティのおいしい召し上がり方」をはじめとする数々のエッセイとレシピ。紹介される愛用の料理道具や器。そして細川亜衣さんや中村好文さんら影響を受けた様々な人々の寄稿文や談話も読んでいて楽しく、読者に豊かな時間をもたらしてくれます。食べるということ、それだけをただシンブルに考える、しかしそこに伊丹十三という独特のスパイスがかかったら。この一冊が、我々の日々の食事や食卓にもまた素敵な変化を加えてくれるかもしれません。映画『お葬式』の舞台となった湯河原の台所の全景なども見ごたえがあり、どのページを繰っても見飽きない。息子の俳優・池内万平さんも父の料理を追憶し、巻末には宮本信子さんのインタビューも収録。食を通して知る伊丹十三という人物の魅力と奥深さが本書からはしみじみ伝わってきます。