ものづくりの背景に潜むエネルギーを見つけ、それらを膨らませ可視化し、家具や生活用品などのプロダクトデザインを手がけるデザイナー・辰野しずかさん初となる作品集。
東京・代々木上原のアートギャラリー「などや」の庭に60年ほど立ちつづけていた一本の梅の木。その梅の木に感化され、近年関心を抱いていた草木染めの技法を用いて抽出された、あわく透き通った梅の木の色。おなじ表情は二度と生まれない、その精緻な色を合わせ砂糖と水で煮詰めのち生まれたのが、本書の主題でもある「梅の飴」です。
本作の持つ「コントロールすることができないうつろい」は、繰り返されたり、とどまることなく流れゆくわたしたちの日常にも近しく、いま、そのときしかない「その瞬間」を記憶し残すため作り上げられたもの。かたどられた輪郭や基となる素材、ひとつひとつに閉じ込められた気泡までもが繊細で、成型された梅の飴は、温度や湿度に左右されながら溶けてゆき、やがて土へと還っていきます。長く在りつづけることなく、物質的な姿を失くしたあとも、見る人々の心の中に、記憶の中に残っていく。本書も誰かにとってそのような存在であって欲しいという願いが込められたような、儚げなうつくしさと静かな存在感を纏う作品集です。(韓)
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