校正者にとっては百冊のうちの一冊でも、
読者にとっては人生で唯一の一冊になるかもしれない。
誰かにとっては無数の本の中の一冊に過ぎないとしても、
べつの誰かにとっては、かけがえのない一冊なのだ。
(亜紀書房より)
一冊の本が書き手のもとを離れたあと、紙に落とされた文章を鉛筆の先端でひとつひとつ押さえ、「読む」のではなく「見る」ということ。
無類の読書家でもあり、書物をこよなく愛する校正者・牟田郁子さんによるエッセイ集。紡がれた文章をより読み手に近づけるため、書店や古書店や図書館を転々とまわり、繰り返し資料を見つめ、与えられたすべてのページとすべての行、それらが含む「言葉の持つ意図とイメージ」とも向き合う。わたしたちが普段手に取り、頁をめくっていく一冊の本ができあがるまでの背景と、校正・校閲者の担う役目と仕事。本というものとの向き合い方とつき合い方そのものについてが、等身大かつ懇切な文章で綴られています。
正しいものへの欲求が大きくなってしまいがちなこの頃。本を愛するすべての人へ捧ぐ、真摯でおおらかな一冊です。(韓)