2020年、インスタグラム上に投稿されるやいなや瞬く間に世界中の人々の反響を呼んだ、ある日本の写真家の作品群。そこに写されているのはおよそ70年前、昭和30年代の青森で日常を生きる人々の姿でした。やがて失われる風景のなか、そこに確かに存在した人間の営み、市井の鼓動、小さな喜びや哀しみの瞬間。生きることのダイナミズムと、過ぎ去った瞬間へのノスタルジーを同時に感じさせるこれらの作品を撮影した写真家の名は、工藤正市。1950年代、新聞記者として働く日々の合間に自身が生まれ育った青森の風景と人々を継続的に撮影しながら、プロのカメラマンの道を選ぶこともなく、2014年に亡くなるまでそれらの記録の所在を明かすことはありませんでした。
本書は、写真家の没後、厖大なネガを発見した家族により、ほとんどはじめて世に知られることとなった作品366点を一挙に収載した写真集。厳しい寒さや貧しさのイメージで語られてきた「昭和の青森」は、70年の時を経て、賑わいと暮らしの匂いに満ちたエネルギーあふれた時と場として、いまそこにあるかのように、あらためて私たちの前にその姿を現します。かつても今も、これからも、変わらぬ普遍的な「ひと」の営みを捉えた70年越しの初作品集を、この機会にぜひお手元に。