熊本にゆかりのある書き手たちの文章を束ね、「職人の自主的な共同組織」を意味する“アルテリ”をタイトルに冠した文芸誌の十一号。佐々木幹郎さんによる沈黙をめぐる三編の詩を巻頭に、畑に出る暮らしから出会った猫たちとの交信の歓びを綴った坂口恭平さんの文章、ハワード・ノーマン『ノーザン・ライツ』の翻訳を担った川野太郎さんが映画館を舞台のひとつに据えた物語の翻訳体験と自身の過去の映画体験の記憶を並べ置いたエッセイ、石牟礼道子から知り合いの伯母、カマラ・ハリスまで様々な女性の声に耳を傾け、自身の経験も交えながら女性たちの「新しい場所」について考える田尻久子さんのテキストなどが続きます。そして今号の目玉は、生前の石牟礼道子が300冊に及ぶノートに書き残した日記から、『苦海浄土』の初稿を書き始める1965年頃（当時38歳）の日々を40ページにわたり収めた「日録」の掲載。心に憶えたことやその日の出来事、創作詩や高群逸枝への強い関心など、日常と文学的関心を行き来する、若々しい息吹を感じさせる貴重な記録を収めます。向こうに見える青空が印象的な風景画のカバーは坂口恭平によるもの。（涌上）