小説家、エッセイスト、デザイナー、絵本作家……ざまざまな顔を持つイラストレーター安西水丸さんが、漫画雑誌『ガロ』で発表した処女作集。

広野に佇みこちらを見詰める主人公の名は、安西さんの本名でもある「のぼる」。ひりひりと広がる寂寞とした風景に、彼の幼少時代の片影を追い駆けます。
恐らく単色ではない、ある種のあやうさを含むような青色は、長女の安西カオリさんが冒頭に述べるとおり、夜空に朝日が差し込む直前の空の色でしょうか。幼少期に過ごした母の郷里の海の色か、それとも彼の愛したブルーウィローの釉薬の色でしょうか。

「何かをつくり出す仕事に就いた人は、幼少期に得た強烈な原風景の再現を生涯追い続けることがあるという。」
（『ブルーインク・ストーリー　父・安西水丸のこと』安西カオリ著　p.14より抜粋）

何れにしろ、それらの色は根源的な記憶に強く結び付いた、まさに原風景へといざなう色なのかも知れません。

彼の作品の特徴とも言うべき”余白”に托された詩情の源流を辿るかのような、静かな傑作！待ち侘びた復刊です。