“どんよりとした曇り空の日だった。取材を終えて、観光客でごった返す京都の三条河原町界隈を歩いていると、ホームレスとおぼしき男性が道ばたに座り込んで黙々と編みものをしていた。ー「路上の編む人」”
日々、服を着ること。装うこと。自らの思いと他者の視線のあわいで揺らぐ。
京都新聞記者の著者・行司千絵さんは、服とはいったい何なのか考えたのち、独学で裁縫を学び、手づくりで服をつくりはじめる。自身の母、小説家のいしいしんじさん、ホホホ座の山下賢二さんに服をつくり、評判を得ながらさらに悩みの小路へと迷い込む。昭和四十年のファッション、服づくりの先にある生命のこと、流行と個性。個人のエッセイから服の歴史へと繋がり、毎日に欠かせない「服」という存在を考えていく。
《それぞれのひとの「わたしの一着」》の章では、京都にゆかりある人々のこだわりを取材。霊長類学者・山極寿一さん、翻訳家・藤井光さん、詩人の岡本啓さん。こだわりというより、お気に入りというべきか。それぞれのひとの味わい深い人柄と重なり、服から紡がれる物語が描き出されます。
真摯に向き合う人ほど悩む。逡巡のなかで綴られた、服をめぐる一冊。カラー写真、図版多数収録。