小さな街で小さなホテルを経営する「ぼく」。お客さんを迎えるだけのぼくも、いつか旅をするのだろうか。ひとり空想の中で遠くへ赴く自分を想像し高揚する心。未知の冒険へ膨らむ胸。けれどもぼくは今日もここにいる…。そんな、何も起こらない静かな世界がみやこしあきこさんのペンによって、豊かなイマジネーションと愛すべき陰影を伴いいきいきと動き出します。異国のホテルのたたずまい、旅の風景、街のあかり。表情を持つ動物を登場人物とし、インテリアや小道具を細部まで描きこむこの作者ならではの表現。それらが緻密ながら穏やかかつ懐かしいタッチで描かれ、静と動の対比に見る者は魅了されます。主人公の「ぼく」の小さな暮らしとまだ見ぬ旅への思い、このふたつのかけがえのない世界を読者は楽しみ、同時に自分自身の日常と旅への憧れに思いを馳せるのかもしれません。リトルプレス『ポポコミ5号』に掲載されたコミック「Solitude Hotel」がおまけ冊子としてついています。
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