吉野英理香は1990年代半ば以降、いわゆるストリート・フォトグラファーとして多数のモノクロ作品を、2010年からはカラー作品を発表し続けています。本書は前作『ラジオのように』から5年振りとなる写真集です。
書籍名は、ビターオレンジの花から抽出された、アロマオイルの名前に由来します。花の蜜に、木の皮や葉の香りが入り混ざった複雑な香り。作家は撮影した写真を絵ハガキサイズに引き伸ばし、膨大な数から厳選し、組み合わせを検討し物語を作ります。まるで映画のワンシーンのような写真の強度。1枚を選ぶ過程や、見る者に喚起させるイメージ、作品のもつ豊かさをまさに代弁したタイトルといえます。
レモンイエローの布に包まれた造本も素晴らしく、巻末には『疾駆』編集長・菊竹寛による寄稿「音色のように残響する」も収録。