横田創(よこた・はじめ)という作家をご存知でしょうか。2000年に群像新人文学賞を受賞したのち、数冊の作品が出版されるものの、その全てが現在は悉く品切れ・重版未定状態になり、新刊で購入する機会は失われました。なかでも早川書房「想像力の文学」シリーズのラストを飾った長篇『埋葬』は、多くの文芸ファンがその年のベスト作品に挙げた傑作です。
この実力のある作家の小説がこのまま読めなくなってしまうのはあまりに寂しい。そんな思いから、個人出版社《書肆汽水域》からこちらの短編集が刊行されました。全六篇、いずれの作品も主人公は女性。彼女らの剥き出しの心や、他者への怒り、同情、共感。世の中が便利になるにつれ、希薄になりつつある、人と人が接し、磨耗していくなかで生まれる気まずさのようなもの。それら全てが必然のように、私たち読者の内側へ染み込む作品群です。個人出版社から純粋な文芸本を出版するというその心意気にも拍手を送りたい。表紙写真はシンガポールの注目の写真家・Nguanの作品。
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