新書館におけるフォアレディース以外の寺山修司の仕事のひとつ「絵本ミュージカル」シリーズの一冊、こちらは「人魚姫」「王様の耳はロバの耳」の二編がおさめられた巻です。誰もが知る古典を著者一流のセンスで翻案、戯曲化し、独自の物語に仕上げる不思議な力。そしてそれ以上に魅力的なのが、やはり装丁や本文のイラストレーションを担当する宇野亜喜良や伊坂芳太郎らの妖しい絵の力です。特に本書は宇野亜喜良による実写をまじえた表紙デザインが素晴らしく、これだけでも一見の価値あり。全体的にメランコリックな雰囲気の造本も美しく、往年の新書館の魅力を余すところなく伝える名作です。函は簡易な厚紙ケースで経年による擦り切れやたわみあり、ほか経年相応のくたびれ以外は本文には目立つ難はなく、古書として標準的な状態です。