生涯を通じて自身の病や怪我と闘い続けたフリーダ・カーロ。本書は彼女が遺した多くの遺品を石内都が撮影し、その人生の光と影を物を通して浮かび上がらせた圧巻の写真集です。片方のヒールが短い靴、極彩色のロングスカート、背骨を固定する為のコルセット、医薬品、使いかけのマニキュア。そのどれもがフリーダの愛と痛みに満ちた人生を見る者に突きつけ、そしてそれらの物を照射することにより、物の声が内側から見る者すべてに聴こえてくるような、そんな気持ちにさせられます。フリーダの血と汗がにじんだような遺品を前に言葉は消え、ただ想像力と魂がゆさぶられるのみ。『ひろしま』と同じく、何も言わぬ物、故人が遺した物というものがこれほど強く熱を持ち何かを訴えかけてくるのか、と改めて実感できるのではないでしょうか。傷つきながらも創造をやめなかった希有な芸術家でありひとりの女性であったフリーダ。これらの物たちは、自身を描き続けた彼女の、いわばもうひとつの自画像とも言えるかもしれません。