商品名はな子のいる風景 イメージを(ひっ)くりかえす
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1947年、タイで生まれた一頭のゾウは、日本の子どもたちの要望に応え、海を渡り日本にやってきます。その名を「はな子」と名付けられたゾウは、2016年5月、69歳で亡くなるまでその生涯のほとんどを井の頭自然文化園で過ごしました。
本書は、市井の人びとの記録を対象にしたアーカイブプロジェクトを展開するAHA![Archive for Human Activities/人類の営みのためのアーカイブ]が、はな子の前に立ち記念撮影した人びとの写真、はな子の飼育日記、新聞記事やメモなどかつての公的/私的記録など、無関係な人々がそれぞれに記録した複数の断片を集積することにより、はな子がいた風景を書物の中に再現した一冊です。それぞれのみでは点でしかなかった記録を時系列に淡々と並べることにより、いつもそこにいたはな子という存在が生きた長大な時間がページを捲るたびに浮かび上がってきます。また、写真提供者たちの記憶をたどるインタビューを収めた冊子も付されることで、昭和20年代から平成に至るまでに撮影された一枚一枚の写真からそれぞれに生きられた別の時間が立ち上がる構成が取られています。写真は一部貼り込みとなっており、その裏面にも様々な記録が忠実に再現されるという非常に凝った造本。本書の読書スペースが設けられた武蔵野市立吉祥寺美術館の「コンサベーション_ピース ここからむこうへ」展(2017年9月9日〜10月15日)に寄せた小説家・保坂和志の寄稿も投げ込みとして付されています。 記録と記憶を通じ、過ぎ去った時間にどのように関わることができるのか。そんな試みを体現した稀有な記録集です。
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