「幸福よりも快楽を!」凡庸を恐れ、曖昧な理想を憎み、孤高を目指せ、と唱えた澁澤龍彦の珍しい人生論。しかしあの目の眩むような壮麗な文体はここではやや影を潜め、軽めに書かれたその内容は初出が60年代の新書世界を支えたカッパブックスの一冊と聞けば納得です。闇の彼方より放たれる澁澤世界のほんの断片をただただ享受するのが精一杯だった当時の読者(無論いまも)には衝撃だったであろう、俗なフレーズもそこかしこに。「たまにはこういうのも書かなきゃね」とムッシュ・シブサワの独り言が聞こえてきそうな、さまざまな意味で興味深い一冊です。
著者:澁澤龍彦 / 出版社:文春文庫 / 237P / ソフトカバー