すぐに来るよと その人は言った 二千年 じゃあまたねと いったきりの 二十年 うぶ声を あげたばかりの 二日 歳月の空白が 伸びたり縮んだり さようならこんにちは ―「空白」 土の匂いのする詩 帯には「きょうは いい日だ」という一文。こんなにも美しい詩集があります。自然のなかにある尊き不思議を、地に足をつけて書いた、石原弦さんの第一詩集『聲』。あさやけから、夕暮れ、夜中。春の芽生え、秋の実り、冬の静けさ。時間や季節の移ろいと、部屋のほこりから宇宙の塵まで。間違いなく素晴らしい詩人である石原さんは、20年近く「養豚」を生業とする自然のなかで生きるひと。誰に読まれるでもなく、十代の頃から書き出したという詩が、はじめて詩集という形で刊行されました。その詩の、静謐な響きは、土の匂いを漂わせながら、生命の鼓動を描き出します。まど・みちおや長田弘を愛読されている方はぜひご自宅の本棚で隣に並べていただきたい一冊です。 ある出会いと造本のこと この詩集は、岐阜の本屋「庭文庫」の百瀬夫妻と石原さんの出会いから生まれました。「あさやけ出版」は、「庭文庫」が発行元として出版をする際のお名前。あとがきに書かれている出会いの経緯も、それ自体が静かな物語のようです。製本会社に勤務しながら、フリーで造本をしている新島龍彦さんの造本も見事。冒頭に、美濃和紙が一ページ挟み込まれていたり、そこにあるだけで、手で触るだけで、なにか美しいものに接したという実感に包まれます。一言で表せば「静謐」な詩集。美しい詩の響きはもちろんですが、出会い、出版、造本、そのすべてがちょうどこの本に一致するような、類を見ない完成度に驚き、かけがえのない喜びを与えてくれます。もっと、この詩人の詩が読めますように。 詩集をつくるにあたって、石原さんが書かれた文章がこちらで読めます。 http://asayake-shuppan.com/940
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