相手の体温を感じるときって、いつだろう?
歴代最多。6度芥川賞候補にあがった多田尋子の作品集が30年の時を経て、個人出版社「書肆汽水域」より、まさかの復刊。結婚、子供、恋愛。若くして夫に先立たれた妻であり母親の葛藤を描く表題作「体温」をはじめ、ままならぬ大人のささやかな恋を、親しみある文体で書いた3篇を収録した純粋な恋愛小説集。近くにいても隔たる他者との距離と、知らずのうちに受け入れてしまった温もり。作家自身、小説を書いていた頃を「忘れ果てた遠いむかし」だと語る今、改めて誰もが彼女の作品を手にできる幸せを、存分にお楽しみください。
書肆汽水域とは?
「自分が売りたい本をつくりたい」という思いから、書店員の北田博充さんが立ち上げた個人出版社。当時の旬な書店にインタビューをした『これからの本屋』、北田さん自身がベスト作家に挙げる横田創短編集『落としもの』をこれまでに出版。個人の版元から、絶版になってしまった極めて純粋な文芸作品を出版するその心意気に心を惹かれます。