佐々木知子による写真集『Ground』は、「土地の記憶」をテーマに、長崎の爆心地跡や周縁の風景を撮影した80ページの写真群、 宗教哲学者・根無一行による約5000字の寄稿文で構成されています。写真をみたかぎりでは、撮影者が何を写したいのか、明確にはわかりません。被写体との距離感が近すぎたり、焦点を外していたりと、どこか曖昧で、もどかしささえ感じます。 私たちは巻末リストを見て初めて、これらが浦上天主堂の聖人像、山王神社、稲佐山から臨む景色など、爆心地周辺を撮影していることを知ります。一目でわかる何か、ではないからこそ、写真と向き合い、74年前の長崎に意識を伸ばすことができるのです。本作は私たちに、いまと地続きの過去を見つめ考える契機を与えます。